世界獣第二形態の咆哮が止んだ瞬間、 新宇宙は「沈黙」へ落ちた。
沈黙は静けさではなかった。 星々が音を失い、 銀河が回転を忘れ、 時間が流れることを拒んだ結果の沈黙だった。
少女はその沈黙の中で、 自分の心臓が宇宙の心臓と同じリズムで打っていることに気づいた。 影の少女は背中の輪郭が、 獣の翼の影と同じ揺れ方をしていることに気づいた。 第三の少女は視界の端で、 法則の線が獣の脊柱と同じ曲率を描いていることに気づいた。
三人は、 獣と同じ「構造」を持ち始めていた。
世界獣第二形態は、 三人を“自分の内部構造”へ組み込もうとしていた。
◆宇宙の骨格が砕ける
沈黙が破れたのは、 獣の胸奥で光が一度だけ脈打った瞬間だった。
脈動は、 星の誕生でも、 銀河の崩壊でも、 時間の反転でもなかった。
それらすべてを同時に含んだ、 宇宙の骨格そのものの震えだった。
震えが新宇宙の端を走り、 端が砕け、 砕けた破片が星骸となって散った。
星骸はただの破片ではなかった。 かつて存在した世界の残響、 少女が歩いた地平の記憶、 影の少女が守った影の痕跡、 第三の少女が触れた法則の欠片―― それらが混ざり合った「宇宙の死骸」だった。
星骸は獣の周囲を回転し、 獣の身体へ吸い込まれた。
獣は星骸を食らい、 さらに進化した。
少女は息を呑んだ。 獣の身体が、 自分たちの過去を食らって強くなっていくのを見た。
影の少女は背中を押さえた。 影が獣の翼へ吸い込まれそうになる感覚があった。
第三の少女は視界を押さえた。 法則の線が獣の脊柱へ引き寄せられるのを感じた。
獣は、 三人の世界観を食らって進化していた。
◆三位一体の強制
獣の胸奥で光が二度目の脈動を打った。
脈動は、 三人の身体を同時に揺らした。
少女の心臓が獣の心臓と同期し、 影の少女の影が獣の翼の影と重なり、 第三の少女の法則が獣の脊柱の曲率と一致した。
三人は、 獣と同じ「構造」を持つ存在へ変わり始めた。
獣は三人を見た。 その目は、 星の核のように白く、 銀河の渦のように深く、 時間の底のように冷たかった。
獣は三人を「自分の一部」として認識した。
少女は胸奥が焼けるような痛みに襲われた。 影の少女は背中の輪郭が崩れそうになった。 第三の少女は視界の端が反転し続けた。
獣は三人を、 三位一体の構造へ強制的に組み込もうとしていた。
◆銀河をまたぐ死闘
獣が動いた。
動いたのではない。 銀河をまたいで跳躍した。
跳躍の衝撃が新宇宙の骨格を砕き、 砕けた骨格が星骸となって散り、 星骸が獣の身体へ吸い込まれ、 獣はさらに進化した。
少女は拳を握り、 近くの星骸を殴りつけた。 星骸が砕け、 砕けた光が獣の爪を押し返した。
影の少女は影を伸ばし、 獣の翼の影を裂こうとした。 しかし逆に影が裂けた。 裂けた影の痛みは、 かつて子供を守れなかった夜の痛みに似ていた。
第三の少女は獣の脊柱へ手を伸ばした。 脊柱は宇宙の法則そのものだった。 触れた瞬間、 法則が反転し、 獣の動きが一瞬だけ止まった。
しかし止まったのは一瞬だけだった。
獣は反転した法則を食らい、 その法則を自分の身体へ組み込み、 さらに強大な獣へ進化した。
◆死の攻防:獣の第三形態の胎動
獣の胸奥で、 光が三度目の脈動を打った。
脈動は、 三人の存在を削った。
少女の心が一瞬だけ消え、 影の少女の輪郭が一瞬だけ消え、 第三の少女の位置が一瞬だけ消えた。
三人は死にかけた。
その瞬間、 獣の内部から声が響いた。
少年の声。 子供の声。 創造者たちの声。
彼らは、 獣の血流として、 獣の骨として、 獣の光として、 三人へ呼びかけていた。
「まだ終わるな。 お前たち三人が、 新しい宇宙の中心だ。」
三人は立ち上がった。
少女は拳を握り直し、 影の少女は影の残骸を掴み直し、 第三の少女は法則の破片を掴み直した。
獣の胸奥で光が膨張した。
それは、 世界獣第三形態の胎動だった。

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