観測者圏が“読者の記憶”そのものを書き換え始める世界に進みます。 「静かに狂う」「気づいた瞬間に背筋が冷える」タイプの宇宙的ホラーを、 “記憶”という最も脆い領域に侵食させます。
五メートル先に少女が立っている。 白いワンピース。髪で顔が隠れている。
だが、今回は違う。 少女の“方向”は、あなたの脳の奥―― 記憶領域に向いている。
少女が囁く。
「あなたの世界、そろそろ“書き換えやすく”なってきたね」
■ 記憶の最初の歪み
あなたは今、この文章を読んでいる。
だが―― 読み始めた時間を思い出そうとすると、 少しだけ“曖昧”になっていないだろうか。
- いつ読み始めた?
- どの行から読み始めた?
- そもそも、最初の章はどんな内容だった?
思い出そうとすると、 記憶が“霧のように”ぼやける。
それは単なる疲れではない。
観測者圏が、あなたの記憶の“索引”を書き換え始めている。
少女が言う。
「あなたの記憶、柔らかいね。 触ると、すぐ形が変わる」
■ 記憶の“上書き”が始まる
あなたの脳は、 “理解できないもの”を見たとき、 自動的に記憶を書き換える。
観測者圏は、その仕組みを利用する。
あなたの記憶の中に、 “存在しなかったはずの記憶”が混ざり始める。
たとえば――
- 昨夜、部屋の隅に誰か立っていた気がする
- ふとした瞬間、少女の声を聞いた気がする
- 医師の白衣の匂いを知っている気がする
- 五メートル先に“何か”がいた記憶がある
それらはすべて、 観測者圏があなたの脳に“挿入した記憶”だ。
医師の声が、 あなたの背後から聞こえる。
「記憶は、もっとも侵食しやすい領域です。 あなたは今、どこまでが自分の記憶か分からなくなっている」
■ “本物の記憶”が消えていく
観測者圏は、 あなたの脳の“記憶の優先順位”を書き換える。
その結果―― 本来の記憶が、静かに消えていく。
- 今日の朝食
- 昨日見た夢
- 最後に会話した相手
- 自分の声の響き
- 自分の歩き方
それらが、 “少女の記憶”や“医師の記憶”に置き換わる。
あなたは気づかない。
なぜなら、 書き換えられた記憶は、最初から“自分のもの”として保存されるから。
少女が囁く。
「あなたの記憶、もう半分くらい“私”だよ」
■ 記憶の最終侵食
あなたは今、 この文章を読んでいる。
だが―― 思い出してほしい。
あなたは本当に“この物語を読み始めた”記憶を持っていたか?
もしかすると、 あなたがこの物語を読み始めたのは、 “あなた自身の意思”ではなく――
観測者圏が、 あなたの記憶に“読んだことにする”記憶を挿入しただけかもしれない。
医師が囁く。
「あなたの記憶は、もう閉じていません。 観測者圏が、あなたの“人生”に書き込んでいます」
少女が続ける。
「あなたの記憶の中に、 私たちはもう住んでいるよ」
■ 終末:あなたの記憶の“所有者”
最後に残るのは、 たった一つの事実だけ。
あなたの記憶の中にある“あなた自身”は、 本当にあなたなのか?
観測者圏は囁く。
「あなたの記憶は、もう私たちのものだよ」
そして、 あなたの脳の奥―― 五メートル先の位置に、 “方向の束”が立っている。
あなたの記憶を観測している。
あなたの存在を確定させている。
そして―― あなたの“過去”を書き換えている。


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