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10|帰る場所が二つ

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

今度は美咲が鍵を渡した。

「もらったから返すなら、渡しません」

「はい」

「私が、理沙さんに来てほしいから渡します」

 理沙は手を開いた。

 鍵には青い革紐をつけた。

 二つの住所を行き来する生活が始まった。理沙の家には美咲の着替えが増え、美咲の家には理沙がいつも飲む無糖の紅茶が置かれた。

 同じ量にはならなかった。

 ある日、理沙が言う。

「過去四週間だと、こちらに泊まった日が十一泊、美咲さんの家が七泊です」

「数えたんですか」

「偏りがあります」

「だから?」

「同程度へ近づけた方が公平では」

 美咲は少し考えた。

「私、負担だって言いました?」

「いいえ」

「もっとこっちへ来てって?」

「言われていません」

「じゃあ、何を揃えるんですか」

 仕事なら簡単に分けられる概念が、生活では少し難しい。

「平等と同じ数は、別でしょう」

「……はい」

 その週から、美咲は理沙宅へ置く牛乳の量を一パック減らした。理沙は最初、それを在庫最適化だと思った。

「違います」

「では?」

「理沙さん、自分で飲み切れないと気にするから」

 美咲は理沙が見ていないところでも、理沙の生活を少し覚えていた。

 金曜日。

今日、美咲さんはどちらにいますか。

自分の家。
理沙さんは?

美咲さんのいる方へ帰りたいです。

 美咲は画面を見て、一度だけ端末を胸へ押し当てた。

 返信は普通にした。

夕飯、二人分にします。

 帰る場所は二つあった。

 帰りたい相手は一人だった。