INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
三か月後。理沙の条件は四十一から二十七へ減っていた。
「これで減ったんですよね」
「はい」
一軒目は数値がよかった。新しく、広く、通勤も安全性も良好だった。
「好きですか」
「条件は良いです」
「住みたい?」
理沙は答えに迷った。
二軒目は、美咲が窓を気に入った。
「ここ、好きかも」
「収納が少ないです。騒音評価も――」
「分かっています」
理沙が欠点を並べ続ける。
移動中の電車で、美咲が言った。
「理沙さん。失敗しない家を探してません?」
「住む場所なので」
「失敗しない方がいい。でも、絶対失敗しないって、先には分からないでしょう」
「条件で防げる失敗もあります」
「あります」
「なら条件は必要です」
「必要です」
美咲はそこで終えた。どちらかが完全に勝つ話ではなかった。
三軒目。
数字では二位。小さな個室、十分なキッチン、窓から少し空が見える。
美咲が何も言わず窓辺に立つ。
理沙も、端末を見ないで部屋を歩いた。ソファ、本棚、植物。仕事から帰ってくる自分。別の時刻に鍵を開ける美咲。
「美咲さん」
「はい」
「ここへ帰ってくるところを、想像できました」
美咲は少し黙った。
「私もです」
二人は三軒目を選んだ。
入居審査が通り、職場では必要なCOI条件だけ再確認した。祝福は短く、午後にはいつものReviewへ戻る。
引っ越しの日、二つの家から生活が一つの場所へ集まった。古い合鍵は役目を終えたが、緑と青の革紐だけは、美咲が小箱へ入れた。
「捨てないんですか」
「まだいいでしょう」
家計用口座、共通消耗品、ゴミの日、宅配の受取、植物の水やり。最初の一週間は、思った以上に決めることが多かった。
最初の夜、二人は段ボールに囲まれながら配達の夕食を食べた。
「好きですか、ここ」
「好きです」
理沙は端末を見なかった。
翌朝。
「ただいま」
美咲が突然言う。
「今ですか」
「昨日、一緒に入ったから言えなかった」
「おかえりなさい」
「理沙さんも」
「ただいま」
「おかえり」
段ボールはまだ十七箱残っていた。