本文へ移動
CDPI ARCHIVEPUBLIC READER ARCHIVELIVE

13|二人の家を選ぶ

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

三か月後。理沙の条件は四十一から二十七へ減っていた。

「これで減ったんですよね」

「はい」

 一軒目は数値がよかった。新しく、広く、通勤も安全性も良好だった。

「好きですか」

「条件は良いです」

「住みたい?」

 理沙は答えに迷った。

 二軒目は、美咲が窓を気に入った。

「ここ、好きかも」

「収納が少ないです。騒音評価も――」

「分かっています」

 理沙が欠点を並べ続ける。

 移動中の電車で、美咲が言った。

「理沙さん。失敗しない家を探してません?」

「住む場所なので」

「失敗しない方がいい。でも、絶対失敗しないって、先には分からないでしょう」

「条件で防げる失敗もあります」

「あります」

「なら条件は必要です」

「必要です」

 美咲はそこで終えた。どちらかが完全に勝つ話ではなかった。

 三軒目。

 数字では二位。小さな個室、十分なキッチン、窓から少し空が見える。

 美咲が何も言わず窓辺に立つ。

 理沙も、端末を見ないで部屋を歩いた。ソファ、本棚、植物。仕事から帰ってくる自分。別の時刻に鍵を開ける美咲。

「美咲さん」

「はい」

「ここへ帰ってくるところを、想像できました」

 美咲は少し黙った。

「私もです」

 二人は三軒目を選んだ。

 入居審査が通り、職場では必要なCOI条件だけ再確認した。祝福は短く、午後にはいつものReviewへ戻る。

 引っ越しの日、二つの家から生活が一つの場所へ集まった。古い合鍵は役目を終えたが、緑と青の革紐だけは、美咲が小箱へ入れた。

「捨てないんですか」

「まだいいでしょう」

 家計用口座、共通消耗品、ゴミの日、宅配の受取、植物の水やり。最初の一週間は、思った以上に決めることが多かった。

 最初の夜、二人は段ボールに囲まれながら配達の夕食を食べた。

「好きですか、ここ」

「好きです」

 理沙は端末を見なかった。

 翌朝。

「ただいま」

 美咲が突然言う。

「今ですか」

「昨日、一緒に入ったから言えなかった」

「おかえりなさい」

「理沙さんも」

「ただいま」

「おかえり」

 段ボールはまだ十七箱残っていた。