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15|離れても帰る

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

外部AUTH連携施設への六週間派遣候補。

「行きたいです」

 美咲は言った。

 仕事の説明をしている間、声が少し速くなる。行きたいのだと、理沙には分かった。

「離れるのは嫌です」

「うん」

「でも、行ってほしくないとは違います」

 美咲は派遣を受けた。

 出発の日。

「鍵、持っていくんですか」

「私の家の鍵だから」

 六週間。

 一週目は映像通話。二週目には、話さない日もできた。

 三週目。二人とも本を読みながら通話だけを繋いだ。会話はほとんどない。それでも切りたくなかった。

 四週目、美咲は長いReviewのあと宿舎へ戻った。理沙からの着信を受け、顔を見た瞬間、いつもの「大丈夫」が出かかる。

 止めた。

「理沙さん」

「はい」

「今日は、大丈夫じゃないです」

 理沙は励まさなかった。

「どうしてほしいですか」

 美咲は答えるまで少し時間がかかった。

「話さなくていいから、ちょっといて」

「はい」

 二人はほとんど無言で通話を繋いだ。美咲はベッドへ横になり、理沙は自宅のソファで本を読む。

 その夜、美咲は初めて、助けてほしいことを必要な大きさの言葉にできた気がした。

 五週目。

「一人でも普通に暮らせますね」

「はい」

「理沙さんも?」

「暮らせています」

「ちょっと寂しい答え」

「でも、美咲さんと暮らしたいです」

 美咲が笑う。

「それならいい」

 六週間後、理沙は十一分早く迎えに着いた。

「おかえりなさい」

「まだ駅です」

「言いたかったので」

「ただいま」

 家へ戻り、美咲が六週間使わなかった鍵を回す。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 植物は少し伸びていた。冷蔵庫には理沙が一人で買った食品があり、美咲の本には埃がついていない。

 家は、美咲がいないあいだ停止していたのではなかった。

 翌朝、冷蔵庫を開けた美咲が言う。

「牛乳、二本あります」

「昨日、美咲さんも買ったので」

「理沙さんも?」

「はい」

 二人で顔を見る。

 それから同時に笑った。