INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
外部AUTH連携施設への六週間派遣候補。
「行きたいです」
美咲は言った。
仕事の説明をしている間、声が少し速くなる。行きたいのだと、理沙には分かった。
「離れるのは嫌です」
「うん」
「でも、行ってほしくないとは違います」
美咲は派遣を受けた。
出発の日。
「鍵、持っていくんですか」
「私の家の鍵だから」
六週間。
一週目は映像通話。二週目には、話さない日もできた。
三週目。二人とも本を読みながら通話だけを繋いだ。会話はほとんどない。それでも切りたくなかった。
四週目、美咲は長いReviewのあと宿舎へ戻った。理沙からの着信を受け、顔を見た瞬間、いつもの「大丈夫」が出かかる。
止めた。
「理沙さん」
「はい」
「今日は、大丈夫じゃないです」
理沙は励まさなかった。
「どうしてほしいですか」
美咲は答えるまで少し時間がかかった。
「話さなくていいから、ちょっといて」
「はい」
二人はほとんど無言で通話を繋いだ。美咲はベッドへ横になり、理沙は自宅のソファで本を読む。
その夜、美咲は初めて、助けてほしいことを必要な大きさの言葉にできた気がした。
五週目。
「一人でも普通に暮らせますね」
「はい」
「理沙さんも?」
「暮らせています」
「ちょっと寂しい答え」
「でも、美咲さんと暮らしたいです」
美咲が笑う。
「それならいい」
六週間後、理沙は十一分早く迎えに着いた。
「おかえりなさい」
「まだ駅です」
「言いたかったので」
「ただいま」
家へ戻り、美咲が六週間使わなかった鍵を回す。
「ただいま」
「おかえりなさい」
植物は少し伸びていた。冷蔵庫には理沙が一人で買った食品があり、美咲の本には埃がついていない。
家は、美咲がいないあいだ停止していたのではなかった。
翌朝、冷蔵庫を開けた美咲が言う。
「牛乳、二本あります」
「昨日、美咲さんも買ったので」
「理沙さんも?」
「はい」
二人で顔を見る。
それから同時に笑った。