本文へ移動
CDPI ARCHIVEPUBLIC READER ARCHIVELIVE

17|私の人です

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

美咲は自分の母親へ電話した。

「今度、理沙さんを連れていく」

「職場の人?」

「恋人」

 沈黙。

「……理沙さんって、女性よね」

「そう」

「そう」

 それ以上、母親はうまく言えなかった。

 当日、父親は最初、

「一緒に住んでる仕事の人」

 と言った。

「理沙さんは、私の恋人です」

 美咲はすぐ直した。

 食卓では、父親が何度か「問題があるかないか」で整理しようとした。

「お父さん」

「何」

「全部、問題かどうかにしなくていい」

 美咲は少し息を入れた。

「今日は、問題がないって認めてもらうために連れてきたんじゃない。会ってほしかった。私の恋人だから」

 庭で、父親が理沙へ言った。

「美咲、何でも大丈夫って言うんですよ」

「はい」

「困ってても」

「私は美咲さんを管理するつもりはありません」

 父親は黙って聞く。

「決めるのは美咲さんです。でも、困っているのに大丈夫と言っているときは、たぶん気づきます」

「必ず?」

「保証はできません。分からなければ訊きます」

 帰り際、母親が理沙を呼んだ。

「理沙さん」

「はい」

 一度言葉を探してから、母親は言った。

「恋人として、また来てください」

「はい。また伺います」

 家を出てしばらく歩いたところで、美咲が止まった。

「ちょっと泣きそう」

 理沙は慰めの言葉を探さず、隣へ立った。

 美咲の方から袖を掴む。

 帰りの電車。

「私の人、って感じがする」

「所有という意味ですか」

「違います」

 美咲は即答した。

「私のものじゃない。管理する人でもない。一人でも生きられる。でも、嬉しいことがあったら話したい。大丈夫じゃないときは気づいてほしい。仕事で間違ってたら、違うって言ってほしい」

 少し考える。

「自分で決めて、自分で生きて、それでも最後に隣へ帰りたい人。そういう意味で、理沙さんは私の人です」

 理沙は窓に映る二人を見る。

「それなら、私も、たぶん同じ意味で美咲さんを見ています」

「今日返さなくてもよかったのに」

「返したかったので」

 美咲は笑った。