INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
理沙の誕生日。
「誕生日自体には強い感情はありません。一年の中の一日なので」
「私は祝いたいです」
「なぜ」
「理沙さんが生まれた日だから」
理沙は黙った。
「その理由は理解できます」
「理解だけ?」
「嬉しいです」
「先にそっち言ってください」
仕事後、美咲は最初のデートで行った植物園へ理沙を連れて行った。
季節が違う。同じ温室でも、あの日とは光が違った。
「今日は予定表なし」
「ありません」
「本当に?」
「候補だけは」
「ありますね」
ベンチで、美咲が包みを渡す。
革のNotebook cover。
理沙が普段使う私用Notebookにぴったりだった。
内側。
まだ、閉じない。
「どういう意味ですか」
「訊くと思った」
美咲はすぐ説明せず、隣の植物を見る。
「恋人になった。家も決めた。家族にも会った。そういう節目のたびに、何か完成したみたいに見えるでしょう」
「はい」
「でも、完成しなくていいと思っています」
理沙が刻印を指でなぞる。
「今日まで一緒だったから明日も自動的に続く、ではなくて」
「明日も一緒にいたいから、明日も続く」
「そう」
「毎日確認は」
「しません」
「よかったです」
翌日。
二人とも牛乳を買って帰った。
「また」
美咲が笑う。
「昨日、在庫確認を忘れました」
「私もです」
理沙はNotebookを開く。
牛乳を二人とも買った。
美咲さんの方が七分遅かった。
今日も、一緒に夕飯を食べた。
「誕生日の次の日に書くこと、それ?」
「残したいので」
美咲は理沙の肩へ顎を乗せ、Notebookを覗く。
「じゃあ、消さないでください」
「消しません」
内側の刻印は、閉じたNotebookの中へ戻った。