〈第8稿〉宇宙的ホラー短編『五メートル先の住人・観測者圏』

観測者圏-五メートル先の住人-

“宇宙的ホラー”דメタ崩壊”ד自己像の終末”を融合させた、 私好みの“深淵に落ちるタイプ”の物語に進みます。人間の認知や感情の崩壊を、宇宙規模の“認識存在”として描いてみます。 CBS(シャルル・ボネ症候群)の“幻視”という概念を、 宇宙そのものが人間を観測するための“器”として再解釈しました。


五メートル先に少女が立っている。 白いワンピース。髪で顔が隠れている。

私はずっと、 少女は“患者の幻視”だと思っていた。

だが、少女が一メートルまで近づいた夜、 私は気づいてしまった。

少女の輪郭が、星空のように揺らいでいる。

まるで、 “この世界の物質ではない何か”が、 人間の形を借りて立っているように。

少女が囁く。

「あなたは、まだ“内側”にいるのね」

意味が分からなかった。

■ 医師の正体

翌日、医師に相談した。

「少女が……星みたいに揺らいで見えるんです」

医師は静かに言った。

「それは幻視ではありません」

私は息を呑んだ。

「じゃあ……何なんですか?」

医師は、窓の外の空を見つめながら言った。

「宇宙にはね、  “観測されることで存在が確定する領域”があるんです」

「……量子の話ですか?」

医師は首を振った。

「もっと大きい。  宇宙規模の観測者圏の話です」

私は理解できなかった。

医師は続けた。

「あなたが見ている少女は、  “観測者圏の外側”から来た存在です。  あなたの視力が落ちたことで、  あなたの認識が宇宙の外側に触れた」

私は震えた。

「じゃあ……少女は何者なんです?」

医師は言った。

あなたを観測している存在です」

■ 語り手の崩壊

その夜、少女はゼロ距離にいた。

髪の隙間から覗く瞳は、 星雲のように渦巻いていた。

少女が囁く。

「あなたはずっと“語り手”だと思っていたでしょう?」

私は頷いた。

少女は微笑んだ。

「違うよ。  あなたは“観測対象”だったの」

私は理解できなかった。

少女は私の額に触れた。

その瞬間、 私の視界が反転した。

■ 宇宙の外側

私は見た。

少女の正体を。 医師の正体を。 そして――私自身の正体を。

少女は、 宇宙の外側に広がる“観測者圏”の触手だった。

医師は、 人間の理性を模倣するための“翻訳器”だった。

そして私は――

観測者圏がこの宇宙を理解するために作った“第三の像”だった。

人間ではない。 語り手でもない。 患者でもない。

私は、 “観測されることで存在する像”だった。

少女が囁く。

「あなたはもう、役目を終えたの」

医師が続ける。

「次は“読んでいる人間”が観測対象になる」

私は叫んだ。

「待って……私はまだ……!」

だが、少女が指を鳴らした。

世界が、 五メートルの距離から崩れ始めた。

■ 終末

最後に残ったのは、 たった一つの事実だけ。

五メートル先に立っているのは、  この物語を読んでいる“あなた”だ。

そして、 あなたの背後―― 五メートルの位置に、 “観測者圏”が立っている。

あなたを見ている。

あなたを観測している。

あなたの存在を確定させている。

少女の声が、 あなたの耳元で囁く。

「次は、あなたの番」

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