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04|帰らなくてもいい時間

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

雨で外出予定が崩れ、二人は澄架の家へ向かった。

 本、植物、使いかけのハンドクリーム。キッチンには乾ききっていない布巾がある。仕事場では見えないものが、部屋には普通に置かれていた。

 夕食は親子丼にした。綾音が材料を切り、澄架が味を決める。

「醤油は?」

「適量」

「何ミリリットル」

「味見してください」

「再現性が」

「家庭料理です」

 綾音が味をみる。

「少し薄いです」

「じゃあ足して」

「何ミリ」

「自分で決めてください」

 澄架が笑う。綾音も少しだけ笑った。

「理沙さん」

 澄架が自然に呼んだ。

 綾音の手が止まる。

「今」

「はい」

「もう一度」

「理沙さん」

 職場では絶対に使わない呼び方だった。

「私も、美咲さんと呼んでいいですか」

「もちろん」

 夕食後、二人で映画を観た。美咲がソファへ深く座り、理沙の肩へ少しだけ頭を預ける。

 最初は触れているだけだった重さが、しばらくすると自然になった。

 雨は夜まで残った。

 帰る時刻。玄関で理沙が靴を履く。

「理沙さん」

「はい」

「帰ってほしくない」

 理沙は振り返った。美咲自身も、言ったあと少し驚いた顔をしている。

「私も帰りたくないです」

 それでも今日は帰る。そこまで決めるのに、二人とも少し時間がかかった。

 扉の前でキスをする。美咲の髪から、さっき使ったシャンプーの匂いがした。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい、美咲さん」

 雨の中を帰る。

 十五分後。

帰りました。

 美咲からすぐ返る。

おかえりなさい。

 理沙は玄関に立ったまま、その一文をもう一度読んだ。