INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
日が長くなり始めた頃。帰宅時間になって、強い雨と鉄道障害が重なった。
「終電、難しそうです」
美咲が運行情報を見る。
「泊まっていきますか」
理沙が訊いた。
「ここに?」
「はい」
それから、きちんと続けた。
「朝まで一緒にいる、という意味です。それ以上を前提にはしません」
美咲は少し笑った。
「分かりました。泊まりたいです」
理沙のTシャツを借りる。
「大きい」
「そこまで違わないと思いました」
「違います」
同じベッドへ入る。最初は間に一人分ほど空間があった。
仕事場では話さないことを話した。美咲は植物の枯れた葉を切るとき少し迷うこと。理沙は眠る前、翌日の最初の予定だけ確認しないと落ち着かないこと。
話しているうちに距離が縮まる。
キス。
もう一度。
美咲が理沙の肩へ額を置いた。
「理沙さん」
「はい」
「今日はここまでにしません?」
「私もそうしたいです」
返事は早かった。
「今日は、一緒に朝までいたいです」
「うん」
手を繋ぐ。
眠る少し前、美咲は理沙の呼吸がゆっくりになるのを聞いていた。
朝。理沙が目を開ける。
「先に時計見ませんでしたね」
「起きていたんですか」
「はい」
「美咲さんを先に見ました」
言ったあと、理沙は顔を逸らした。
「それ、今日一日覚えておきます」
「忘れてください」
「嫌です」
美咲は新しい歯ブラシを洗面台へ残した。
帰る前、何気なく言う。
「行ってきます」
理沙が笑った。
「行ってらっしゃい」
二本の歯ブラシの間には、まだ少し距離があった。