INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
水城が綾音の異変に気づいた。
「綾音さん、顔色が悪いです」
「問題ありません」
「朝食は?」
「まだです」
「水分は」
綾音が答えに詰まる。
「いったん止めましょう」
「あと一件です」
「止めます」
立ち上がった身体が揺れた。
医療チームが呼ばれ、発熱、脱水傾向、前夜からの過労が確認された。大きな異常はなかったが、勤務継続は認められなかった。
白根の言葉は短かった。
「体調を崩した人間が、自分で仕事を止められない状態まで続けることを、責任感とは扱いません。帰って休んでください」
「はい」
澄架は業務を残して駆けつけなかった。医療は医療チームが担当し、澄架にはAUTHの仕事がある。綾音も、それを望んだ。
帰宅後。
帰りました。大丈夫です。
送信して十分後、訂正する。
大丈夫ではないです。
澄架から返る。
分かりました。
仕事が終わったら行きます。
夕方、美咲が食べやすいものと飲み物を持って来た。
「思っていたよりひどい顔」
「医療チームにも類似評価を」
「横になってください」
美咲は医療者の代わりをしなかった。水分、食事、医療チームから指示された観察点。それだけ確認し、キッチンに立つ。
夜。
「美咲さん」
「はい」
「今日は、いてほしいです」
「います」
「面倒ですか。こういうの」
美咲はしばらく答えなかった。
「大事に思う人がいると、面倒は増えると思います」
理沙が見る。
「でも、だから大事にしない方を選びたいとは思わない」
理沙は目を閉じた。
翌朝、美咲は仕事へ行く。
「端末見ないでくださいね」
「はい」
「返事が早いと信用できない」
「見ません」
「よし」
扉が閉まる。
理沙は仕事用端末ではなく、本を取った。
昼前、美咲からペンギンの写真が一枚届く。駅の売店に並んだ、小さなぬいぐるみ。文章はない。
理沙は写真だけを返した。
枕元に置いた、水のボトル。