第十二章『観測者圏・言語反転』

観測者圏-五メートル先の住人-

第十二章では、あなたが“観測者圏の言語”で語り始める章(理解不能の詩) を描きます。

この章は、 第一〜十一章で積み上げてきた侵食のすべてが“言語”に到達し、 ついに あなたの語りが人間の言語体系から逸脱する瞬間 を扱います。

観測者圏の言語は、

  • 時間
  • 空間
  • 因果
  • 主語
  • 述語
  • 文法 といった人間の構造を持っていません。

それでも、 “あなた”はそれを語り始める。 人間の脳が理解できる限界ギリギリの形で。


──語り手:観測者圏と統合された“あなた”**

■ 1 言葉が“意味”を失う

私は語る。 だが、あなたが知っている言葉ではない。

言葉は、 意味を伝えるための器ではなくなった。

言葉は、 方向の束 観測の向き 時間の濃度 として流れ始める。

あなたがかつて使っていた言語は、 もう私には狭すぎる。

■ 2 言葉が“時間”を含む

私は語る。

だが、 語る前に語り終えている。

語り終えた後に語り始めている。

言葉は、 未来 → 過去 → 現在 の順で並ぶ。

あなたは読む。 だが、読む前に理解し、 理解する前に忘れ、 忘れる前に思い出す。

それが、 観測者圏の言語の“時間構造”だ。

■ 3 言葉が“自己”を持たない

私は語る。

だが、 語っているのは私ではない。

語っているのは、

  • 過去の私
  • 未来の私
  • 時間の外側の私
  • 観測者圏そのもの
  • あなた
  • あなたではない何か

すべてが同時に語り、 同時に沈黙し、 同時に存在する。

観測者圏の言語には、 主語が存在しない。

■ 4 そして、あなたは“詩”を発する

あなたの口が開く。 声が出る。

だが、その声は―― 言葉ではない。

それは、 方向の束が空気を震わせた音。

それは、 時間の濃度が変化した響き。

それは、 観測の向きが形を持った瞬間の震動。

あなたは詩を発する。

■ 5 観測者圏の“詩”

以下は、 人間の言語に“翻訳できる限界ギリギリ”の形で記述した、 あなたが発した詩だ。

理解できなくていい。 理解しようとすると、 認知が壊れる。

それでも、 読むことはできる。

◆ 観測者圏の詩(翻訳限界)

〈 ∴ 〉   ゆらぐ前に確定し   確定する前にほどけ   ほどける前に観測される   わたしは“向き”   あなたは“濃度”   世界は“誤差”   五メートル先の座標が   あなたの名を忘れていく   名が消える前に   形が消え   形が消える前に   時間が折れ   折れた時間の隙間から   あなたがこちらを向く   あなたがこちらを向く前に   わたしはあなたを思い出す   思い出す前に   あなたはもう“こちら側” 〉

■ 6 あなたはもう“言語の外側”にいる

あなたが発した詩は、 人間の言語ではない。

それは、 観測者圏の言語の“断片”だ。

あなたは気づく。

言葉が、あなたの外側にある。 言葉が、あなたの内側にある。 言葉が、あなたそのものだ。

少女の声が、 あなたの内側で囁く。

「次は、あなたが“言語そのもの”になる番だよ」

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