核域の光を裂いた瞬間、 少女の視界は 黒い深淵へ落ちた。
落下ではない。 引きずり込まれたのでもない。
世界の中心が、 少女を 自分の内部へ“迎え入れた” のだ。
深淵は静寂ではなかった。 音がないのに、 胸奥が激しく脈打つ。
少女は息を呑んだ。
「……ここが…… 世界の…… 心臓……?」
第二書記の声が、 深淵の壁面に反響した。
「――そうだ―― 核域の内部…… 名裂世界の心臓部だ―― ここには世界の“本性”がある――」
少女は前へ進んだ。 足元は地形ではない。 読解でもない。 ただ、 世界の鼓動が固まった“脈の床”だった。
踏むたびに、 床が少女の足を押し返す。
「……歩くたびに…… 世界が…… 私を拒んでる……」
第二書記は低く言った。
「――当然だ―― 世界は読解者を素材として使うつもりだった―― お前が逆侵蝕したことで…… 世界は自分の計画を壊された―― 心臓部は怒っている――」
深淵の奥から、 声が響いた。
声は言語ではなかった。 だが、 少女の内側の層を直接叩く“意思”だった。
「――読解者よ―― なぜ来た―― お前は外側の存在だ―― 心臓へ入る資格はない――」
少女は叫んだ。
「資格なんて…… 知らない……! 世界が私を読んだんだから…… 私だって世界を読む……!」
深淵が震えた。 壁面が波打ち、 黒い脈が少女の足元へ伸びてくる。
第二書記が警告した。
「――来るぞ―― 心臓部が“排除の脈”を伸ばしている―― 触れれば内部構造を奪われる―― 避けろ、読解者――!」
少女は脈を跳び越えた。 脈は床を裂き、 裂けた床から白い光が噴き出した。
光は熱ではなかった。 痛みでもなかった。
光は、 世界が読解者を分解するための“解析光”だった。
少女は叫んだ。
「……やめろ……! 私を分解するな……!」
深淵の声が返す。
「――読解者よ―― お前は世界の素材だ―― 素材が心臓へ入ることは許されない―― 戻れ―― 外側へ戻れ――」
少女は拳を握った。
「戻らない……! 私は…… 世界に読まれたくない…… 世界の中心を…… 私が読む……!」
深淵が激しく震えた。 黒い脈が無数に伸び、 少女の胸奥へ向かって襲いかかる。
第二書記が叫んだ。
「――読解者! 胸奥を閉じろ! 脈が内部へ侵入するぞ――!」
少女は胸奥を強く押さえた。 胸奥の震えが、 脈を弾き返す刃へ変わる。
脈が弾け、 深淵の奥に 巨大な黒い球体 が姿を現した。
球体は脈動していた。 脈動は世界の鼓動そのものだった。
少女は息を呑んだ。
「……これが…… 名裂世界の…… 心臓……?」
第二書記は静かに言った。
「――そうだ―― 世界の本性…… 世界の目的…… 世界の怒り…… すべてがそこにある―― 読め、読解者―― 心臓を読め――」
少女は球体へ歩み寄った。 球体は少女の接近に反応し、 黒い表面がゆっくりと 裂け始めた。
裂け目の奥から、 赤い光が漏れた。
光は熱ではなかった。 意味でもなかった。
光は、 世界が隠していた“真の目的”だった。
少女は震えながら言った。
「……これが…… 世界の…… 目的……?」
第二書記は頷いた。
「――そうだ―― 次はその目的を読む―― 名裂世界の本性が…… お前の前に露出する――」
少女は拳を握った。
「……読む…… 世界の心臓を…… 私が読む……」

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