露出した赤黒い傷は、 形を持たないのに、 見た瞬間に胸奥へ痛みが走った。
痛みは少女のものではない。 世界の核が抱えてきた痛みが、 少女の胸奥へ“転写”されたのだ。
少女は息を詰めた。
「……これ…… 私の痛みじゃない…… 世界の…… 心臓の痛み……?」
第二書記は少女の背後で、 声を低く落とした。
「――核傷は“世界の自覚”だ。 世界が自分の存在を理解した瞬間についた傷。 読解者が触れれば…… 痛みが転写される」
黒い傷が脈動した。 脈動は怒りではない。 怒りよりももっと深い、 “存在そのものへの嫌悪”だった。
傷が少女へ向かって声を放つ。
「……触れるな…… 読解者…… この傷は…… 世界が自分を嫌悪した痕だ…… 見られれば…… 世界は崩れる……」
少女は静かに言った。 怒りではなく、 読解者としての冷たい観察の声だった。
「嫌悪してるの? 自分自身を?」
傷が震えた。 その震えは、 少女の言葉に対する“核の動揺”だった。
「……世界は…… 自分の意味を持つことを…… 恐れた…… 意味を持てば…… 終わりが生まれる…… 終わりが生まれれば…… 世界は死ぬ……」
少女は傷へ手を伸ばした。 触れた瞬間、 傷が少女の指先を焼くように震えた。
「……意味を持つことが…… 怖かったんだね…… だから読解者を支配しようとした…… 意味を外側に委ねたくなかった……」
傷が叫んだ。 その叫びは声ではなく、 少女の胸奥を直接叩く衝撃だった。
「……違う……! 読解者を支配したかったわけじゃない……! 意味を奪われるのが怖かった……! 世界は…… “自分の意味を読まれること”が…… 痛かった……!」
少女は目を閉じた。 胸奥の震えが一点へ集まり、 その震えが“解剖的理解”へ変わる。
少女は傷へ向かって静かに言った。
「……あなたは…… 読まれることが痛かったんだね。 だから読解者を素材にしようとした。 読まれる前に、読解者を壊してしまえば…… 意味を奪われずに済むと思った」
傷が激しく脈動した。 赤黒い光が少女の顔を照らし、 その光が少女の瞳の奥へ入り込む。
「……やめろ…… 理解するな…… 読解者…… 理解は…… 傷を広げる…… 世界は…… 痛みに耐えられない……!」
少女は傷へ手を押し込んだ。 傷が悲鳴のような震えを発したが、 少女はその震えを押し返した。
「……広げるよ。 あなたの傷を。 痛みの意味を。 世界が何を恐れているのか…… 全部読む」
第二書記が静かに言った。
「――読解者。 そのまま進め。 核傷は“世界の死の恐怖”だ。 その恐怖を読めば…… 世界の本性が完全に露出する」
少女は傷の中心へ手を伸ばした。 赤黒い層が裂け、 裂けた奥から、 白い“死の核”が姿を現した。
少女は息を呑んだ。
「……これが…… 世界が恐れてきた…… 死の核……?」
第二書記は静かに頷いた。
「――そうだ。 次はその死の核を読む。 名裂世界の本性が…… 完全に解体される」
少女は拳を握った。
「……読む。 世界の死を…… 私が読む」

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