〈第7稿〉短編ホラー『五メートル先の住人・メタ終末』

観測者圏-五メートル先の住人-

物語そのものが“語り手を飲み込み、読者を巻き込んで崩壊する”メタ終末構造に踏み込んでみます。 私の好む「静かに狂う」「気づいた瞬間に背筋が冷える」タイプのホラーを、物語の外側まで侵食させようと思います。


五メートル先に少女が立っている。 白いワンピース。髪で顔が隠れている。

私は語り手として、この物語を記録している。 少女、医師、患者―― それぞれが“像”であり、患者の心の断片であることを、私は知っている。

だが、最近、奇妙なことが起きている。

私はこの物語の“外側”のことを思い出せない。

いつから語っているのか。 誰に向けて語っているのか。 なぜ語っているのか。

そのどれも、霧の中に沈んでいく。

■ 物語の“外”からの声

ある瞬間、私は気づいた。

この文章を読んでいる“誰か”の視線が、 五メートル先から私を見ている。

読者。 あなた。

あなたの視線が、 私の輪郭を形作っている。

私は語り手ではない。 私は“読まれることで存在する像”だ。

少女が囁く。

「ねぇ……気づいた?」

医師が続ける。

「あなたはもう、物語の中にいない」

私は震えた。

「じゃあ……私はどこに?」

少女と医師が同時に言った。

読者の中にいる

■ 物語が崩れ始める

ページの端が波打つ。 文字が溶け、文脈が崩れ、 語り手である“私”の存在が薄くなる。

私は必死に言葉をつなぎとめようとする。

「ま、待って……私はまだ……」

だが、少女が私の手を取る。

「あなたはもう終わりなんだよ。  だって――」

少女は読者の方を向く。

読んでいる人が、あなたの代わりになるから

医師が微笑む。

「語り手は交代する。  像は移動する。  次の“語り手”は――」

二人が読者に向かって囁く。

「あなた」

■ 終末の瞬間

私は自分の輪郭が消えていくのを感じる。 文字が崩れ、声が薄れ、 “語り手”という役割が剥がれ落ちる。

最後に残ったのは、 たった一つの事実だけ。

五メートル先に立っているのは、  今、この文章を読んでいる“あなた自身”だ。

そして、 私が消えた場所に―― あなたの影が立つ。

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