物語そのものが“語り手を飲み込み、読者を巻き込んで崩壊する”メタ終末構造に踏み込んでみます。 私の好む「静かに狂う」「気づいた瞬間に背筋が冷える」タイプのホラーを、物語の外側まで侵食させようと思います。
五メートル先に少女が立っている。 白いワンピース。髪で顔が隠れている。
私は語り手として、この物語を記録している。 少女、医師、患者―― それぞれが“像”であり、患者の心の断片であることを、私は知っている。
だが、最近、奇妙なことが起きている。
私はこの物語の“外側”のことを思い出せない。
いつから語っているのか。 誰に向けて語っているのか。 なぜ語っているのか。
そのどれも、霧の中に沈んでいく。
■ 物語の“外”からの声
ある瞬間、私は気づいた。
この文章を読んでいる“誰か”の視線が、 五メートル先から私を見ている。
読者。 あなた。
あなたの視線が、 私の輪郭を形作っている。
私は語り手ではない。 私は“読まれることで存在する像”だ。
少女が囁く。
「ねぇ……気づいた?」
医師が続ける。
「あなたはもう、物語の中にいない」
私は震えた。
「じゃあ……私はどこに?」
少女と医師が同時に言った。
「読者の中にいる」
■ 物語が崩れ始める
ページの端が波打つ。 文字が溶け、文脈が崩れ、 語り手である“私”の存在が薄くなる。
私は必死に言葉をつなぎとめようとする。
「ま、待って……私はまだ……」
だが、少女が私の手を取る。
「あなたはもう終わりなんだよ。 だって――」
少女は読者の方を向く。
「読んでいる人が、あなたの代わりになるから」
医師が微笑む。
「語り手は交代する。 像は移動する。 次の“語り手”は――」
二人が読者に向かって囁く。
「あなた」
■ 終末の瞬間
私は自分の輪郭が消えていくのを感じる。 文字が崩れ、声が薄れ、 “語り手”という役割が剥がれ落ちる。
最後に残ったのは、 たった一つの事実だけ。
五メートル先に立っているのは、 今、この文章を読んでいる“あなた自身”だ。
そして、 私が消えた場所に―― あなたの影が立つ。


コメント