本文へ移動
CDPI ARCHIVEPUBLIC READER ARCHIVELIVE

02|最初から

INDEPENDENT / NON-CANON

『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作

『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。

二度目の待ち合わせで、綾音は最初から手を差し出した。

 澄架はその手を見てから、綾音の顔を見る。

「今日は早いですね」

「前回は駅まででした」

「はい」

「今回は最初からでいいかと思いました」

 澄架は笑い、その手を取った。

「いいと思います」

 水族館の薄暗い通路を、二人は手を繋いだまま歩いた。大きな水槽の前では、人の流れに押されて肩が触れる。

 澄架は、綾音の手が職場で資料を渡すときより少し温かいことを知った。

 ペンギンの展示前で、綾音は一羽をずっと見ていた。

「気になるんですか」

「はい」

「どこが?」

 綾音は少し考える。

「見ていたいと思ったから」

「理由、それだけ?」

「足りませんか」

「いいえ」

 澄架はペンギンではなく、綾音の横顔を見る。

「それだけでいいです」

 少しあと、澄架が訊いた。

「どうして私だったんですか」

「何がですか」

「誘ったの」

 綾音はすぐには答えなかった。

「澄架さんは、私の判断が違うとき、違うと言うので」

「はい」

「でも、一つ間違ったことで、私全体を信用できないとは扱わない」

 澄架は黙って聞く。

「それが安心します」

「仕事の話からなんですね」

「仕事で知ったことなので」

 澄架は少し笑った。

「じゃあ私も。綾音さんは、違うと分かったら直す」

「当然です」

「当然じゃない人もいます。最初の判断に理由を足して、最初から正しかったことにしない」

「事実と違うので」

「そういうところが好きです」

 綾音の歩みが一瞬だけ遅れた。澄架はその反応を見て、少し嬉しくなった。

 帰り、二人は別々に売店へ入った。

 数日後。CDPIの共用スペースで、綾音の鞄に小さなペンギンが揺れた。澄架の鞄にも同じものがついている。

「あ」

 二人で見比べる。

「いつ買ったんですか」

「水族館で」

「私も」

 通りがかった深苑が、一度だけ二つのペンギンを見る。何も言わず、そのまま歩いていった。

 澄架は自分の鞄のペンギンを指で少し揺らした。

 同じものを選んだ理由までは、まだ訊かなかった。