INDEPENDENT / NON-CANON
『まだ、閉じない。|理沙と美咲』/第一連作
『観測者圏』の人物・世界設定を用いた独立した非正史作品です。本編正史には影響しません。
美咲が来る三日前から、理沙は家を整えていた。掃除、本の整列、キッチン、洗面所。カーテンまで洗った。
土曜日、美咲は部屋へ入り、きれいだと言ったあと黙った。
「どうしました?」
「ここまでしなくてもよかったのに」
理沙の顔から、ほんの少しだけ表情が消えた。
「不要でしたか」
「違います」
「でも――頑張ったのに、否定されたみたいに聞こえました」
美咲はすぐ謝った。
「ごめんなさい。言い方が悪かった」
それでも理沙はすぐには笑わない。美咲も、急いで修復しようとしなかった。
少ししてから、本棚の前へ行く。
「私、散らかった家が好きなわけじゃないです」
「はい」
「でも、読みかけの本とか、昨日使ったカップとか」
「カップは洗います」
「そういう意味じゃなくて」
美咲が振り返る。
「生活の途中が見たい」
理沙はその言葉を考えた。完全には理解できない。
「今日は、まだ分からないです」
「それでいいです」
午後、二人は別々の本を読んだ。美咲が席を立って植物の鉢を四分の一ほど回す。
「何を?」
「こっちばかり日が当たるから」
理沙はそれを覚えた。
しばらくして、美咲の本が理沙の本へ少し重なった。理沙は直さなかった。
夜、美咲が帰ったあとも、テーブルの二冊は斜めのままだった。
理沙は照明だけを消した。